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腸閉塞(イレウス)とは・・・

 何らかの原因で腸の内容が停滞し、通過不良となった状態です。例えばがんで通過障害を来したものや、薬や血流障害で腸管の麻痺を生じたものも腸閉塞ですが、高気圧酸素療法の適応となる腸閉塞は、おもに開腹手術のあとの癒着により腸の通過障害を起こしたもので、腸管の壊死が起きていないものです。(腸管の壊死が起きているものでは迅速な手術が必要になります)

癒着性腸閉塞(イレウス)の治療

 腸の一部で通過障害となっているので一般的な治療方法は、

  1. 絶飲食で補液。(点滴をする)
  2. 減圧のために胃や小腸に管を入れる。
    (胃に入れるチューブを経鼻胃管、小腸に入れるチューブをイレウス管といいます)
  3. 1週間くらいこの治療をしても改善が見込めない場合は、手術が必要になります
  4. 高気圧酸素療法。

 1、2の治療をやっても改善がなかったり、何回も手術をしている場合に行われることが多いのが実状で、はじめからこれを行う施設は全国的にもほとんどありません。
 残念ながらまだ一般的な治療としては認知されていません。その理由は、特殊な装置が必要なことと、まだその効果が十に認識されていないためです。

高気圧酸素療法とは・・・

 私たちはよほどの高地でない限り、通常1気圧のもとで生活しています。この大気圧よりも高い気圧の中で、高濃度の酸素を加圧によって吸収させることで病態の改善を図る方法を高気圧酸素治療もしくは高圧酸素療法といいます。以下に適応とされる病態を示します(保険が利きます)。適応には救急的適応と非救急的適応があります。腸閉塞(9)は救急的適応に入っています。

 救急的適応

  1. 急性一酸化炭素中毒およびその他のガス中毒
  2. ガス壊疽
  3. 空気塞栓症と減圧症
  4. 急性末梢血管障害(熱傷、凍傷、広汎挫傷等)
  5. ショック
  6. 急性心筋梗塞およびその他の急性冠不全
  7. 脳塞栓、頭部外傷、開頭術などによる意識障害、脳浮腫
  8. 重症の低酸素性脳機能障害
  9. 腸閉塞(イレウス)
  10. 網脈動脈閉塞症
  11. 重症の急性脊髄障害
  12. 突発性難聴

 非救急的適応

  1. 悪性腫瘍(放射線、抗ガン剤との併用)
  2. 難治性潰瘍を伴う末梢循環不全
  3. 皮膚移植
  4. スモン
  5. ショック
  6. 脳血管障害、外傷または開頭術による運動麻痺
  7. 一酸化炭素中毒後遺症
  8. 脊髄神経疾患
  9. 骨髄炎および放射線壊死
  10. その他

治療方法

 高気圧酸素治療には特別の装置が必要です。一人を治療する装置と同時に数人を治療する装置があります。当院では下のような一人用の治療装置を使用しています。
高気圧酸素治療装置

 透明な装置ですので外からも中からも見えますし、内臓されたマイクとスピーカーで治療中も話をしたり、テレビを見たりすることができます。実際の治療方法は約15分で2気圧ないし2.5気圧まで加圧し、この状態で1時間治療します。その後また約15分で減圧して治療が終わります。実際に中に入っている時間は、1時間半くらいになります。有効な場合は、おならや排便が見られ、腹痛が軽減します。X線写真でイレウスが改善していれば、食事を始められます。閉所恐怖症の方や、認知症が強い方、中耳炎の既往のある方などはこの治療ができないことがあります。当院では15歳から95歳までの方がこの治療を受けられています。

治療実績(1999年1月~2015年12月)

 当院でこの治療を始めた1999年1月から2015年12月までの治療実績を示します。癒着性腸閉塞(イレウス)の患者さん、のべ417人にこの治療を行い、改善した人は362人、86.8%の有効率でした(10人中約9人はこの治療だけで治るということです)。高気圧酸素療法が無効であった55人中14人の方が手術を希望され、残りの40人はイレウス管による治療となりました。このうちイレウス管で解除した人は28人、解除できなかった12人は手術になりました。腸閉塞で手術が必要な人はそう多くないということになります。この他、1人は経過観察中に解除しています。

 高気圧酸素療法が有効だった人(全体の86.8%)の治療回数を調べると、1回で解除した人は137人(32.9%)、2回で解除した人は109人(26.1%)、3回で解除した人は84人(20.1%)で、平均2回で解除され、食事開始できることがわかります。

 癒着性腸閉塞は、過去に行われたおなかの手術などにより、腸のどこかに癒着がある状態であり、この治療では根本的な解決にはなりません。従ってまた腸閉塞を起こす可能性があり、全体で40.85%の人に再発が見られますが、その場合も同じ治療で早く治すことができます。

男女別治療件数

男女別治療件数
  個体数 のべ回数 割 合
男性 166 291 70%
女性 81 126 30%
総計 247 417  
男女別治療件数

 

年代別治療件数

 

開腹既往疾患

開腹既往疾患
疾患箇所 件数 割 合
大腸 88 36.2%
52 20.9%
婦人 18 7.7%
虫垂 27 10.6%
その他 48 18.7%
不明 14 6.0%
イレウス患者
個体数
247 100.0%
開腹既往疾患

 

イレウスの治療経過

イレウスの治療経過

 

治療経過別 入院~経口までの日数

治療経過別 入院~経口までの日数
治療区分 HBO イレウス管 手術 全体
対象データ件数 360例 28例 26例 414例
平均値(日) 3.7 2.8 8.4 11.7
中央値(日) 2.0 7.0 10.5 3.0
1日後 107 1 1 109
2日後 85 2 0 87
3日後 76 3 2 81
4日後 43 0 1 44
5日後 20 2 0 22
6日後 11 5 0 16
7日後 9 2 2 13
8日後 1 2 2 5
9日後 2 1 3 6
10日以降 6 10 15 31
集計対象外 2     3
合計 362 28 26 417

集計対象外=HBOで解除したが経口開始日不明2例、 上記治療区分以外の症例1例

 

経口開始までの日数

再発率と発症回数

1個人あたりのイレウス発症回数
イレウス再発率
  のべ数 再発数 再発率
男性 291 125 43.0%
女性 126 45 35.7%
全体 417 170 40.8%
イレウス発症回数
イレウス発症回数 個体数
1回 176
2回 39
3回 8
4回 8
5回 6
6回 2
7回 3
8回 2
9回 2
10回 1
合計 247

 

解除までの施行回数

解除までの施行回数
解除までの施行回数
平均値 2.09回
中央値 2回
対象データ件数 351件
解除までの施行回数
1回 137 32.9%
2回 109 26.1%
3回 84 20.1%
4回 13 3.1%
5回 8 1.9%
6回 0 0.0%
不明 11 2.6%
解除せず 55 13.2%
集計外 0 0.0%
全データ件数 417件 100.0%

 

費用

1回の治療に係る保険点数は5000点です。5回までかけることができます。平均で2回で治りますので5,000×2点、つまり10万円ですが、1割負担で1万円、3割負担で3万円ということになります。イレウス管を入れる手技料5,000点、開腹による手術は10,900点、腹腔鏡による手術は 15,300点です。自分でしたら、どちらを希望されるでしょうか?